岸辺のアルバム （1977/06/24～09/30）

俳優の杉浦直樹さんが2011年9月21日に亡くなられました（満79歳没）。
ご冥福をお祈りします。

1974年の多摩川水害のニュース映像を使ったり、ジャニス・イアンの
「ウィル・ユー・ダンス」の主題歌が印象深い「岸辺のアルバム」（脚本・山田太一）。

仕事人間のエリート商社マン田島謙作（杉浦直樹）の心の拠り所は苦労して建てた一軒家である。

受験を控えた息子の繁（国広富之）は正義感は強いが勉強には今ひとつ身が入らない。

妻の則子（八千草薫）は専業主婦だが、大学生の娘・律子（中田喜子）は
そんな母とは違う生き方をしたいと英語の勉強に力を入れる。

ひとつの家に住みながら、家族の誰とも接点の薄い則子は孤独を感じている。

そんな則子に見知らぬ男が「家庭調査センター」と名乗って電話をかけて来る。
実は男は駅前で則子を見かけて美しいと思ったので思わず電話してしまったと言う。

「奥さんは浮気をしていますか？」

初めはまともに取り合わなかった則子だがいつしか男の電話を心待ちするようになる。
その男・北川（竹脇無我）と最初は喫茶店、次は美術展などで会ううちについに旅館に入って一線を越えてしまう。

一方、娘の律子は学校で、おどおどして自信無さ気な敏子（山口いずみ）と親しくなり、英語に自信のある律子が彼女の家を訪ねて行くと予想外の邸宅であり、英語の本も完璧な発音でスラスラと読んでみせる。

実は敏子は帰国子女であり、おどおどした態度も全くの演技だったのだ。
「あんたのブロークンイングリッシュなんて可笑しくって」と嘲笑される律子。
奇妙な始まり方だったが敏子と律子は親友となり、優等生だった律子はタバコや
酒を覚える。
紹介されたアメリカ人に夢中になった律子だったが、その友人に暴行されて妊娠
してしまう。

繁（国広富之のデビュー作であり、爽やかな笑顔の八重歯と半袖のワイシャツが
良く似合った）は駅のホームで母を見かけ、不倫の事実を知ってしまう。

優等生で美人の姉が妊娠した事を知り、相手のアメリカ人を殴りに行くが返り討ちに遭う。


更に反発しながら尊敬もしていた父・謙作の会社は業績悪化のため、武器の密売や外国人女性の売春に手を染めている事を知りショックを受ける。
（原作では解剖用の死体の輸入）。

家族の各々の問題が露呈しギクシャクした雰囲気の中、謙作が例によって
庭で家族の集合写真を撮影しようと言い出す。
こんな雰囲気の中でも家族が笑顔で寄り添った写真を撮ろうという謙作に、
繁はついに家族の前で全てをぶちまけてしまう。

そのころ、台風16号による風雨が激しさを増して来ていた。

今年3月の震災による津波や、2度の台風被害でこのドラマを思い出した人も多いと思う。
特にサラリーマンにとって「家」は自分の会社人生の血と汗と涙の結晶である。
3.11のニュース映像を見ていた私もつらかった。

ついに多摩川堤防が決壊し、周辺の家が流され始める。
家を飛び出して浪人中の繁も駆けつけ、消防団員の避難誘導に「5分だけ」と家に入る。
家族全員でギシギシと音を立て始めた我が家に入り、「大事なもの」として
家族のアルバムを取り出した後、繁の提案で家の壁や階段を撫でながら
「ありがとう」「さようなら」「さようなら」と最後の挨拶をする。

台風の去った後、川岸に屋根だけが打ち上げられていた。

「アルバムが大事だって言ったわね。アルバムが大事でも、本当の繁や律子や
　私は大事じゃないんだわ。
　あのキレイ事のアルバムと、この家が大事なんだわ。
　・・・贅沢かもしれないけど・・・寂しかったのよ。　寂しかったの。」
「・・・則子！」

全15話を通して初めて謙作が妻を名前で呼ぶ。　「おい」や「おまえ」では無く。

アメリカに幻想を失った律子は繁の高校時代の恩師（津川雅彦）と婚約し
（原作では三十代の風采の上がらない男で、あんな出来事の後なので
律子がヤケを起こしたんじゃないか、と親が心配するシーンがある）、

繁が「いいじゃないか。皆で働けばまたすぐに買えるよ。
さっぱりしていいじゃないか」と言い、謙作が「そうだ。さっぱりしていい。
やり直せという事だ」というセリフでドラマは終わる。

企画の段階では竹脇無我と津川雅彦の役は逆だったそうだ。

ファッションモデル兼女優の谷内里早は、国広富之の実娘。


P.S.
それまでそれぞれ「理想の夫」「良妻賢母」と言われていた竹脇無我と八千草薫が従来のイメージを覆す役柄が新鮮だった。

奇しくも一ヶ月前の8/21に竹脇無我が、そして9/21に杉浦直樹が他界してしまった。

八千草薫さん 2019年10月24日（88歳没）・・・。

岸辺のアルバム (光文社文庫)

• 作者: 山田 太一
• 出版社/メーカー: 光文社
• 発売日: 2006/04/12
• メディア: 文庫

岸辺のアルバム DVD-BOX

• 出版社/メーカー: 角川書店
• メディア: DVD

コメント 11

今年は亡くなられた方のニュースが多く感じられて
しまいます。いろいろあった年だからでしょうか？
寂しいですね..
by miyoko (2011-09-26 02:49) 

八千草薫さん、今もおきれいだけど、
若い頃もやっぱりきれいですね。
by pandan (2011-09-26 06:48) 

懐かしいですね。
でも山田太一といえばオッサン的には「男たちの旅路」かな？
by うっしい (2011-09-26 19:31) 

山田太一の小説・脚本の主な作品は持っているのですが、
「岸辺のアルバム」だけ行方不明でした。
たぶん、知人に貸してそのまま・・・なのでしょう。

単行本・文庫本共に絶版というのはガッカリです。

by k_iga (2011-09-26 20:08) 

岸辺のアルバムと言うタイトル
すごーく有名ですね。
内容は知らないけど、このタイトルはよく聞きました。
名作だったんでしょうか。
国広富之の実娘 美人ですね。
あごが細っ。イマドキの娘さんだわ~。
by がり (2011-09-26 23:27) 

かつて２１世紀にも残るドラマの１本に選出されました。
山田太一の原作小説も傑作です。

>国広富之の実娘 美人ですね。
次女です。　お父さんに似ていますね。　八重歯は無いけど（笑）。
by k_iga (2011-09-26 23:38) 

お二人が相次いで・・・

そしてトミーの娘さん　めっちゃ父似でかわいいです
by egg (2011-09-27 15:01) 

「岸辺のアルバム」は再放送で観ました。
まさしく私も、
この間の台風の映像を見て、
このドラマを思い出した一人です。

それから、
夫（杉浦直樹）と愛人（竹脇無我）をほぼ同時に失った
八千草薫さんは今どんな心境なのかと、
聞いてみたい気がしています。

by 青山実花 (2011-09-27 22:32) 

当時はほとんどのサラリーマンがそうだったのでしょうが、
家庭を顧みない謙作（杉浦直樹）に
「あなたに罪はないの？」
と則子（八千草薫）は問いかけます。

四人で二子玉川で食事をした後、謙作（杉浦直樹）の「おい、四人で並んで
帰るんだ」の一声で家の遭った場所へ帰ります。

家、という形は失いましたが、家族の再生という点ではハッピーエンドです。
by k_iga (2011-09-27 23:18) 

ラスト近くで、
たしか竹脇さんが杉浦さん杖？か何かを拾ってあげるシーンが
あったと思うのですが、
夫と愛人のちょっとした接触に、「おぉ！」と思った記憶があります。

役の上とはいえ、
この短い期間に、
夫役の俳優さんと、愛人役の俳優さんを亡くした
八千草さんの心を思うと、
私まで悲しい気持ちになってしまいます。

by 青山実花 (2011-09-28 21:26) 

すみません、意味を取り違えていました。

ドラマの制作で長期間一緒だった役者仲間を喪うのは辛いでしょうね。

今年は震災と２度の台風のせいか、著名人が亡くなると心に響きます。
by k_iga (2011-09-28 22:42)